主催者メッセージ
私がユキ・アリマサさんを知ったのは、2021年の7月、ジャズ・シンガー、CHAKAさんが歌う「I Don’t Want To Live On The Moon」という曲ででした。ちょうどコロナで様々なことが制限されている時期でした。*この曲はCHAKAさんのアルバム「hush-a-bye」に収録されています。
セサミ・ストリートの中で歌われるこの曲は「いろんなところに行ってみたい!お月様にも、海の底にも、ジャングルにも! だけど、そこにずっと住むのはイヤだ、だってきっと家族や友達や好きな場所が恋しくなっちゃうから」という歌詞です。その歌詞に地方で暮らす高齢の家族を思い、涙ぐんでしまうこともありました。CHAKAさんの歌声、そして、ピアノの、繊細で美しい音、間奏では柔らかく、でも力強く展開していくフレーズに魅了され、何度も何度も聴きました。その曲をアレンジし、ピアノを弾いていたのがユキ・アリマサさんでした。
演奏をライブで聴いてみたいと、吉祥寺のSOMETIMEや大塚のDONFANといった、ジャズの老舗ライブハウスに通い始めました。そこでCD「Dimensions」と出会いました。それは軽井沢の大賀ホールで無観客で録音されたもので、バッハやドビュッシーなどの曲をユキ・アリマサさんがフリー・インプロヴィゼイション(即興)で演奏したものでした。美しい響きでした。この頃、父が入院から十日も経たずに亡くなるという出来事がありました。コロナ感染予防のため最期も病室に入ることができず、兄弟を病院のベンチで待ちました。胸にぽっかりと穴があいたようでした。朝日を見てもちっとも明るい気持ちになりませんでした。親しい友達もこの世を去ってしまいさらに気持ちは沈みました。そんな中、CD「Dimensions」を聴くと心が落ちついてくるのを感じました。そして、美しい音だけでできているようなこの演奏が何かを訴えかけてくるのです。なぜかわからないのですが少しずつ生きる力のようなものを取り戻していきました。
このユキ・アリマサさんの演奏には大きな力があるかもしれないと思いました。友人二人に聴いて欲しくてこのCDを送りました。悲しい出来事に遭遇していた彼女たちは「優しく染み入るメロディに涙が出た。こういうものを求めていたんだね、わかるよ」「ボリュームを最大にして聴いています。作業をしながら音楽に癒されています」という言葉を送ってくれました。
これを聴いてもらいたいと、2022年11月、神田のジャズライブハウスLydianでユキ・アリマサさんの演奏会を開き、友達50人が参加してくれました。クラシックのインプロヴィゼイション、ジャズのスタンダードナンバー、ジョニ・ミッチェルもありました。一人でのピアノ演奏は、ドラムやベースが入るトリオやサックスとのデュオ等とはまた違ったエネルギーがあり、圧巻でした。普段ライブに足を運ばないという友達も、楽しかった、身も心もリフレッシュした、音に癒された、来た甲斐があった(秋田や福岡から)と言ってくれました(H P掲載の感想は彼らの言葉です)。その頃から彼の演奏をCD「Dimensions」を録音した軽井沢大賀ホールで聴くことができたら素晴らしいだろうなと思い始めました。
そしてこの3月、軽井沢大賀ホールでのコンサートが実現します。嬉しいです。ユキ・アリマサさんは、音楽に真摯に向き合っている人だと思います。3歳からピアノを始め、今も音楽大学での指導やライブ活動以外に毎日数時間ピアノを弾くそうです。生徒だった方から聞いた話ですが、発表会で何を着るかと盛り上がっていたら、演奏を聴いてもらうのになんでそんなに外見を気にするの、と言われたそうです。本人はそこにこだわっていないのか、今回もヴィジュアルで使う演奏写真を頼んだところ、ほとんど候補がありませんでした。でなので今回のHPメインやフライヤーに使った写真も2022年のライブで私の友達が撮影した写真です。ちょっとピンボケしています。それほど、全てを演奏に注ぎ込んでいる、’ジャズピアノのマイスター’(と呼ばせてください)の演奏を多くの方に聴いていただきたいです。
春の息吹を感じる軽井沢で、音の波に包まれるユキ・アリマサさんの演奏を楽しんでいただけたら大変嬉しく存じます。
(ソラリス・コンサート事務局 今野)